食育そのものは日本だけでなく海外にもありますが、食育の法律が存在しているのは日本だけです(食育基本法)。それだけ、日本の食育には特徴や奥の深さがあるということです。
では、日本の食育と海外の食育とでは、具体的にどう違うのでしょうか?
日本の食育
シンガポールを除けば、日本は先進国のなかで食料自給率のもっとも低い国です(※)。
シンガポールは都市国家であり、食料を海外依存するという国家方針を明確にしています。
要するに開き直っているわけですが、彼らはそれでよいのです。
しかし我々はおそらく、開き直るわけにはいかないでしょう。
1億2千万人の人口を擁する日本ですから、都市国家シンガポールとは全く事情が異なります。
フード・セキュリティ(※※)の心配を抱える日本は、食料自給率を高めることを国策とせざるを得ず、「食育」行政のなかにも
食料自給率を高める施策がさまざまに展開されています。
こうした施策は農業政策と深く結びついており、そのために、「農業を守り、発展させよう」「地産地消を進めよう」というメッセージが随所に色濃く見られます。
これが、日本の食育の大きな特徴です。
「食農教育」と表現される場合もあります。
かつて、近畿農政局が考案した食育教材に「親と子の食育かるた」がありますが、そのなかの句にこのようなものがあります。
「そらあかん六割輸入に頼ってちゃ」
「六割の食べ物すべて外国産」
かるたで遊ぶ年齢といえば、幼稚園児か、せいぜい小学校低学年くらいまででしょう。
「輸入」「外国産」という概念にはまだ馴染みがうすいかもしれません。
そんな年齢を対象に、、大人の事情を強烈に盛りこんだかるたを提供するのはある意味、洗脳しているようにも感じられるのですが…。
いずれにせよ、日本政府の危機感や焦りがこのようなところにも表れているわけです。
(※)各国の食料自給率:農林水産省ウェブサイトの「世界の食料自給率」のページを参照ください。
(※※)フード・セキュリティ:いざというときのために、食料を確保しておくことをいいます。
海外の食育
ひるがえって海外を見ると、海外(先進国)の食育には、一般に「食料自給率を心配する」という要素はありません。
食育に熱心なのは、アメリカ、フランス、イギリス、オーストラリアといった国々ですが、イギリスをのぞけばどこも農業大国ですので、食料自給率が云々されることはありません。
そのイギリスも、農業大国でこそありませんが、食料自給率は日本よりずっと高いです。
ではなぜ、これらの国々は食育に熱心なのでしょうか?
答えは、「肥満の増加に悩んでいる」からです。
したがって、食育の中心になるのは、栄養教育です。
たとえばアメリカでは、マクガバン・レポート以来、さまざまな「食育」行政が行われてきましたが、ほとんどが栄養教育です。