硫黄は軽視できない栄養素です

硫黄はかつては見過ごされがちでしたが、今日では必須栄養素として認識されるようになっています。窒素と同じくらい重要だと考えられる場合もあるため軽視することは出来ません。

硫黄が重要な栄養素である理由

現在では硫黄を窒素に次いで2番目に重要な栄養素であると考える農業技術者もいます。 確かに硫黄は必須栄養素であり、生物学的プロセスにおいて窒素と密接に関連しており、窒素と硫黄は切り分けて考えることが出来ない1セットとして考える必要があります。以前は硫黄の作物要求量は大気中からの供給で足りていたため、硫黄は副次的な役割に限定されていましたが、今日では最適な窒素管理をおこなうために不可分な要素として考えられる様になってきています。

硫黄は現在2番目に重要な栄養素と考えられるまでになっています

硫黄は地球上の生命の基礎となる成分です。 硫黄はすべての植物体内に存在し植物の代謝に重要な役割を果たします。 硫黄は植物性タンパク質・アミノ酸・各種ビタミン・酵素の形成に不可欠です。硫黄を含むほとんどの複合化成肥料には窒素も含まれており、これら2つの栄養素には密接な関係があります。 硫黄は窒素の取り込みに必要な酵素の一部であり、硫黄が不足すると窒素の代謝を著しく妨げる危険性があります。 硫黄は窒素と二人三脚でタンパク質合成に必要なアミノ酸の形成を可能にします。 脂肪酸や各種ビタミン類に含まれており、作物の品質や味や香りに重要な影響を及ぼします。硫黄はまた実質的に光合成・全体的なエネルギー代謝および炭水化物生産に関与しています。

見過ごされがちな硫黄欠乏

1990年代まで硫黄欠乏を心配することはほぼありませんでした。産業革命以降、製造業から出る二酸化硫黄(SO2)の排出によって、作物の生育に必要十分な量の硫黄が自動的に供給されていたからです。近年の環境規制と低硫黄燃料の出現によって、硫黄排出量は劇的に削減される様になりました。 それと同時に高収量と高品質が要求される様になるにつれて、作物によって土壌中の硫黄が回収される量が増加しました。 20年前には硫黄欠乏が起こることはかなり稀でしたが、現在では硫黄欠乏は一般的になってきています。 硫黄欠乏は以下に挙げる条件下で発生する可能性が高くなります。

•砂質で土壌有機物が少ない土壌(=硫黄含有量が少ない)
•冬期の大雨(=硫黄の流亡)
•春の乾燥(=硫酸塩の移動度が低い)
•低温(=作物に吸収されるための無機化が遅れる)
•有機物と無機硫黄の投入量が少ない(=投入量が少ない)
•工業地帯からの距離(=大気中からの硫黄供給が少ない)

硫黄欠乏–症状

硫黄欠乏の症状は窒素欠乏の症状と見分けるのが難しいことがよくあります。 硫黄欠乏症状には葉緑素の生成が足りない結果として生じた若い葉の黄変も含まれます。硫黄欠乏になると生育が一般的に減少します。 穀物作物では分げつが減少します。 ナタネでは花色が悪くなり葉に歪みがでてきます。 ほとんどの場合硫黄欠乏症状が出てから対処しても手遅れとなる場合がほとんどです。 硫黄欠乏は明らかにそれと分かる場合よりもはるかに多い頻度で、認識できないまま発生しています。

1.牧草の硫黄欠乏(右)- 温室で育てられた牧草の硫黄欠乏

 

2.小麦の硫黄欠乏- 葉緑素の生成不足によって全体的に葉色が淡くなり、生育不全になる典型的な硫黄欠乏症状

 

3.ナタネの硫黄欠乏(左)- 成育が低下し開花はまばらで白くなります。

 

土壌中の硫黄はどこから来るのか?

土壌中の硫黄の循環は窒素の循環と多くの類似点があります。 硫黄は様々な形態で土壌中に存在しますが、その多くはすぐに作物に吸収されることなく存在しており、ほんの一部だけが作物にすぐに取り込まれて利用されます。 残りの大部分は作物に吸収されるための変換プロセスを経る必要があります。

作物は硫酸塩(イオン)を好む

植物の根は硫酸塩(イオン:SO₄²-)の形態でしか硫黄を取り込むことが出来ません。 植物の葉も二酸化硫黄(SO2)として空気中の硫黄を吸収することも可能ですが、ほんのわずかな量に限られます。 土壌中に存在する硫黄のすべては作物が吸収・利用できるようになるためにまず無機化されることが必要です。

硫黄源

土壌中のすべての硫黄はそれが大気・火山など自然界から供給される硫黄、畜糞堆肥など有機質肥料に含まれる硫黄、また化成肥料の中に含まれる硫黄など様々な形態がありますが、植物が吸収するためには最終的に硫酸イオンの形態にならなくてはなりません。 硫酸イオンの形態で直接施肥するとロスを防ぐことが出来ます。

1.化成肥料から入る硫黄
硫黄成分の入った化成肥料には、硫酸イオン(SO₄²-)の形態で硫黄が入っています。 化成肥料に含まれる硫酸イオンはすぐに栄養素として利用可能であり、植物に簡単に吸収されます。 硫酸イオンは土壌中での移動性が高く、植物の根にすばやく到達します。 生育初期および生育成長中に化成肥料として硫黄散布することは、他の肥料成分、特に窒素との組み合わせに適しています。 元素硫黄がイオン化するには土壌微生物によって変換される必要がありこれには時間がかかります。 また元素硫黄は土壌を著しく酸性に傾けます。

2.大気中から土壌に蓄積する蓄積

 

ヨーロッパでの硫黄排出量の変化(1990年~2010年)
縦軸:硫黄酸化物の排出トン数
横軸:年

 

硫黄は火山の噴火などの自然現象、また化石燃料の燃焼など人間の経済活動によって二酸化硫黄(SO2)として大気中に存在します。 硫黄は二酸化硫黄ガスとして空気中から植物の葉に吸収される可能性はありますがごくわずかです。大気中の硫黄のほとんどは酸性雨として土壌に浸漬します。 ところが過去25年間で硫黄の排出量は82%以上減少したため土壌への浸漬量も大幅に減少し、現在は5 kg / haを超えることはほとんどありません。

3.有機堆肥から入る硫黄
堆肥には殆どが有機物の状態で硫黄が含まれているため、作物に吸収されるためには無機化されていなければなりません。ADAS(*訳者注:農業・環境分野で75年以上に渡ってコンサルを行っている英国最大の独立系組織)の最近の研究によると、秋に牛糞堆肥を施肥した場合で翌春に作物に取り込まれる硫黄量は5〜10%しかなく、作物は十分に吸収出来ませんでした。

硫黄の流亡

硫黄は土壌中では窒素と同じように変化します。 硝酸イオン(NO3-)と同様に硫酸イオン( SO₄²-)は土壌中に固定されにくく流亡し易いという性質があります。 したがって硫黄施肥の戦略としては作物の成長に合わせて作物が硫黄を必要とする時期に与えることが重要となります。 作物の生育ステージでの硫黄施肥が最も効果があります。硫黄を秋に施肥することはお薦め出来ません。

 


 

作物は実際にどのくらいの硫黄を必要とするのか?

作物によって硫黄の要求量は異なります。 一部の作物では土壌中にある硫黄で十分であるものもありますが、作物によっては適切に硫黄施肥しないと品質・収量に深刻なロスが出る場合があります。 硫黄施肥はしばしば当て推量になります。ではどのぐらいの量が必要となるのでしょうか?

作物の硫黄要求量

一部の作物は他の作物よりも多くの硫黄を必要とします。 一般的に硫黄の要求量の高い作物ほど欠乏した場合の感応性が高くなります。 ナタネは硫黄要求量が高い作物ですが、硫黄のほとんどはナタネ油を収穫後の植物残渣に残ります。

作物の硫黄吸収の動態

作物が硫黄を取り込む総量(蓄積量)というのは硫黄の必要性の1つの側面にすぎません。 作物が硫黄を取り込む動態を知ることも重要になります。 栄養成長期間が短い作物は、短期間で大量の硫黄を必要とします。 栄養成長期間が長い作物は土壌中にある硫黄を吸収する時間が長くなるため、肥料への依存度が低くなります。 ナタネは生育成長期間が短く硫黄要求量も高いため硫黄欠乏に対して特に気を付ける必要がある作物です。硫黄欠乏によって最大で1-2トン/ haの収量ロスを引き起こす可能性があります。

 

 

ナタネと小麦の硫黄要求量
縦軸:硫黄(SO3)要求量(kg/ha)
青曲線:ナタネの硫黄要求総量
オレンジ曲線:小麦の硫黄要求総量
黒ブロック:土壌から供給される硫黄量

 

栄養成長期のナタネと小麦の硫黄要求量は、土壌中から自然供給される分量ををはるかに上回ります。 5月を例に取ると小麦では硫黄必要量の半分、ナタネでは2/3は不足することになります。

土壌分析

窒素と同様に、土壌のサンプリングと分析を行って、土壌中の利用可能な硫黄の実際の量を測定することができます。 ただし土壌分析での測定量は作物へ吸収される分、無機化される分、毛細管現象および流亡により失われる分などあり、実際には急激に変化してしまいます。 そのため土壌分析の結果はあまり参考とはなりません。

 

 

組織分析Tissue analysis (N(窒素):S(硫黄)の比率)
Oilseed rape:ナタネ、Cereals:麦類、Potatoes:馬鈴薯、Grassland:牧草

 

乾物中の硫黄濃度を測定する目的での組織分析は硫黄欠乏になっているかどうかを判断するうえで、土壌分析より信頼できる指標になります。一般的に硫黄含有量はほとんどの作物で乾物の0.3%以上、ナタネの場合では0.45%を超えていることが理想です。 窒素と硫黄の間には密接な相関関係があるためN(窒素):S(硫黄)の比率を測るのが硫黄欠乏かどうかを探る最も一般的な方法となります。

推奨される硫黄(SO3)量

 

 

Oilseed rape:ナタネ、Winter cereals:冬撒き麦、Spring cereals:春撒き麦
Grassland(Silage):牧草(畜舎用)、Grassland(Grazing):牧草(放牧用)

 

推奨される硫黄量はさまざまな要因・状況によって異なりますので、常にFACTS(*訳者注:英国の肥料アドバイザー協会)公認の営農技術指導者に確認する必要があります。また堆肥を使用する場合は完全な栄養管理計画を実施する必要があります。 肥料によって原料、製法などが異なりますので妥協を避けるために適切な製品を選択することが重要です。 硫黄以外の他の栄養素にも当てはまりますが留意すべき3つの大事な点は、適切な肥料源、適切な施肥タイミング、適切な時期です。

適切な肥料源

植物は硫酸イオンの形で硫黄を必要とします。 これは、根が吸収できる唯一の硫黄の形態であり植物体内で使用される形態です。 植物は元素硫黄の形態では取り込むことが出来ず、土壌微生物によって硫酸イオンに変換されることによって初めて取り込むことが出来ますが硫酸イオンに変換されるには土壌の温度と湿度にもよりますが数日から数週間かかります。 窒素の場合では殆どの作物は硝酸イオンの形態の窒素を好みます。 硝酸態は作物が最も容易に吸収する形態です。アンモニア態でも窒素吸収はされますが硝酸態に比べて吸収される率が低く、アンモニア態から硝酸態に変換されることでより吸収され易くなります。 尿素を例に取ると窒素量としては46%と高いですが、作物が尿素をそのまま吸収することは出来ません。尿素は土壌微生物によってアンモニア態窒素→硝酸態窒素と作物に吸収可能な形態に変換されるプロセスが必要です。


 

作物に栄養素を効率よく吸収させ即座に反応させたい場合は、硫酸イオン(SO₄²-)の形態で硫黄成分を含み、硝酸イオン( NO3−)の形態の窒素割合が高い肥料を選択するのが賢明です。 硫安をベースにした硫黄肥料は必然的にアンモニア態窒素の割合が高くなります。 Yaraの窒素系肥料のほとんどは硝酸イオンベースであるため硫酸カルシウムとして硫黄を含んでいます。これは溶解性が高いため、植物の根にすばやく到達します。

適切な施肥タイミング

タイミングに関して言えば、重要なメッセージは硫黄を「少しずつ」施肥することです。 これにより、シーズンの早い段階で1回の散布ですべての硫黄を施肥することによって引き起こされるすべての問題を回避できます。 「少量を頻繁に」施肥するアプローチは流亡のリスクを減らし、作物が急速に生育している期間中に必要なときに硫黄を取り込めるようにします。 硫黄には植物体内の古い組織に結合して不活性化し、体内移動が出来なくなるという性質がありますが、「少量を頻繁に」施肥することで、新しい組織の成長をサポートすることが可能となります。またモリブデンなどの他の栄養素との相互作用のリスクも回避します。 これを達成できるようにするには、作物の栄養要求量に一致する適切なN(窒素):S(硫黄)比の肥料を選択する必要があります。

適切な量

最後に、上述したポイントに気を付けたとしても個々の栄養素をバルクブレンドしたBB肥料を選択してしまうと、個々の栄養素が分離し栄養素が偏った状態で圃場に施用することになってしまうため、折角の努力が台無しとなってしまいます。 また特に機械散布を行う場合、BB肥料は各栄養素で嵩比重が異なるため、特定の栄養素が特定の箇所に偏って散布されてしまう欠点があります。 これらを回避するにはすべての粒に全ての栄養素を含むYaraMilaコンプレックスなどの複合化成肥料を選択して、栄養素の分離・偏りを排除することによって、すべての栄養素を圃場全体に均一に施肥できるようにします。

日本で販売しているYaraの硫黄入り複合化成肥料

YaraMila コンプレックス217
12(うち硝酸態窒素5)-11(うち水溶性リン酸7)-17(水溶性カリ)+20%S03-NPKが一粒一粒に配合された高度化成肥料。光合成に不可欠な苦土(マグネシウム)、また近年不足しがちな硫黄に加えて各種微量栄養素も入っており、露地、ハウス栽培作物に幅広く使えるオールラウンド肥料です。

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YaraMilaスプリンター
20.5(うち硝酸態窒素9.5)-7(うち水溶性リン酸4.5)-14(水溶性カリ)+カルシウム3%配合の化成肥料。小麦などの穀物にも適しておりますが、窒素とカリウムの要求量が高いビートにも最適な肥料です。

YaraMila コンプレックス L366
23(うち硝酸態窒素11)-6-6 + 可溶性カルシウム4.85% –即効性の硝酸性窒素と肥効が長続きするアンモニア性窒素がバランス良く配合されているL型肥料です。気温・地温が低く窒素が効きにくい時期に特に効果を発揮します。

YaraMilaコンプレックスN555
15(うち硝酸態窒素6)-15-15+可溶性カルシウム6%- NPKがバランスよく配合されたオールラウンド肥料です。

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