イチゴの収量と品質を最大限に引き出すには窒素(N)リン酸(P)カリウム(K)等の主要栄養素と微量養素のバランスが重要となります。 どの栄養素が不足しても収量や品質の低下を招くことになります。またイチゴの生育に必要な各栄養素がイチゴに吸収可能な形態となっているかを考える必要があります。
イチゴの生産者はイチゴの栽培によって消費される栄養素量とその補給を考える際に、栽培方法と培地を考慮する必要があります。 露地栽培で果実の収穫後に葉とランナーも除去する場合は、作物に取り込まれた栄養素は土壌から全て取り除かれると考えられます。 その結果、その土地で栽培を続ける場合、毎年の肥料供給によってその年のイチゴの栽培に必要となる栄養素が土壌中で作物に取り込まれる形態となっていることを確保することが重要となります。
イチゴの品種による栄養素の吸収量のちがい
イチゴの栽培品種によって取り込まれる栄養素の量にも大きな違いがあるため、栽培方法や期待収量に応じて各栄養素の供給量を調整することも重要となります。 上の図は、栽培品種によってN(窒素)P(リン酸)K(カリウム)の必要量(吸収量)が倍近い差があることを示しています。
したがって栽培方法や期待収量、栽培するイチゴの品種の特性に合わせて、施肥量を決定することが重要となってきます。
主要栄養素(Macronutrients)
主要栄養素がイチゴの各生育ステージで吸収可能な状態となっていることが重要です。
主要栄養素の吸収量(単位:mg/一株/1日当たり)
主要栄養素の吸収量(作物全体=苗+果実)
培地(サブブストレート)栽培は左軸、土壌栽培は右軸
1トンの果実を収穫するために吸収される主要栄養素量(単位:1ポンド=約0.45kg)
左グラフ:培地(サブストレート)栽培(2種類の品種で3回試験の平均値
右グラフ:土壌栽培(5種類の品種で5回試験の平均値
窒素(N)は果実収量1トン当たり6〜7ポンド(2.7kg~3.2kg)の割合で大量に必要とされます。イチゴの成長のためには窒素を継続的に供給する必要があり、最終的には50%の窒素が果実に蓄積されます。窒素を過剰供給すると葉に蓄積して後の生育ステージで果実を柔らかくしたり、成熟を遅らせることにつながります。 大事なのは生育成長期を通して過不足なく窒素供給を行うことです。
リン酸(P)は生育初期のステージで根張りと葉の成育を確実にするために重要となります。
果実収量1トン当たり約1〜2ポンド(0.5kg~0.9kg)が吸収されます。果実の生育中は他の器官のリン酸の濃度が減少し、果実への転流が進みます。最終的に作物に取り込まれたリン酸の約40%が果実に蓄積します。
カリウム(K)は窒素の要求量を上回るレベルで大量に必要です。 果実収量1トン当たり約7〜9ポンド(3.2㎏~4.1kg)が吸収され、作物全体の吸収量の約60%が果実に蓄積されます。カリウムが最も必要となる時期は果実形成の初期から成熟期までであり、同期間中は他の栄養素よりも早く取り込まれます。
カルシウム(Ca)も大量に必要とされる栄養素です。一般的に果実の収量1トンごとに約3ポンド(1.36kg)のカルシウムが必要となります。作物体内のカルシウムの殆どは根、葉と葉柄に分布しており、果実へのカルシウムの転流は植物体内の水分が葉面から蒸散されるのに伴って水分が根から上に吸い上げられる時に水分の移動と同時に行われます。
従ってカルシウムが水に溶けて植物体内で移送されやすい形態となっているかが重要なポイントとなります。カルシウムは果実の品質・硬度を保つ、保存性をよくするといった働きがあります。そのためには果実の生育期間中にコンスタントにカルシウムが転流されるようにすることが重要となります。
マグネシウム(Mg)の要求量はカルシウム(Ca)よりも少量ですが、生育を持続させるために必要となります。以下のチャートが示すように果実に蓄積する割合は窒素(N)、リン酸(P)、カリ(K)と比較すると相対的に少なくなっています。
主要栄養素の分布割合
Fruitts:果実、Flowers:花、Leaves&Petioles: 葉&葉柄、Roots&Crown:根&花弁
主要栄養素の消費量(果実)
果実収穫1トンで消費される各栄養素量(単位:1ポンド=約0.45kg)
微量栄養素(Micronutrients)
主要栄養素と比べると要求量ははるかに少ないですが、個々の微量要素すべてが作物の生育、収量および果実の品質を保つうえで役割を果たしています。そのなかでも特に吸収量が多い微量栄養素は鉄(Fe)とマンガン(Mn)です。
微量栄養素の吸収量(作物全体=苗+果実)
1トンの果実を収穫するために吸収される微量栄養素量(単位:グラム)
B(ホウ素)、Cu(銅)、Fe(鉄)、Mn(マンガン)、Zn(亜鉛)
取り込まれた鉄(Fe)と銅(Cu)は主に根と花弁に分配されます。 ホウ素(B)マンガン(Mn)および亜鉛(Zn)は主に果実および葉に分配されます。 ホウ素(B)と亜鉛(Zn)は新しい組織の成長を支え供給が不足すると未着果や奇形の原因となることがあります。
取り込まれたB(ホウ素)とZn(亜鉛)のうち20〜30%が果実に転流します。
微量栄養素の分布割合
Fruitts:果実、Flowers:花、Leaves&Petioles: 葉&葉柄、Roots&Crown:根&花弁
本記事は、Yara米国法人提供の農業科学情報をGRWRSが翻訳、記事化し掲載しております。
Yara International ~世界最大の老舗肥料メーカー~
Yara Internationalは、ノルウェーに本社を置く世界最大の老舗肥料メーカー。
しかし、ただ肥料を供給しているだけではありません。世界人口の増加や 異常気象・地球温暖化といった問題により生産環境・食料事情が厳しくなる中で、「環境に優しい農業」をどうやって実現するのか?という課題に取り組んでいる「環境企業」でもあります。
また、Knowledge Grows というスローガンのもと、100年を超える長い歴史を通じ、世界各国の農業者にアグロノミー(農業科学)の最先端の情報を惜しみなく提供してきました。肥料メーカーでありながら、その本質は情報提供者であり地球環境を真剣に考える教育者・啓蒙者でもあります。