GRWRS探訪No.4 アグレスノーバ 静岡県磐田市

-心優しき農業革命児たち-

静岡県磐田市竜洋地域。天竜川が遠州灘に注ぎ込む潮風の微かな匂いと陽光が眩しい場所にアグレスノーバの本拠地がある。代表の花積義人さん(30歳)は静岡県の農業高校、農林大学校を卒業後長野県で農業研修生として就農した後に当地で2017年に独立就農。花積さんが農業の基礎を学んだ静岡県農林大学校卒業の仲間2名(松村俊耶さん(31歳)、栁澤雅人さん(31歳)と兄の克明さん(36歳)の合計4名の農業好き仲間が集まりながらアグレスノーバは成長してきた。
アグレスノーバってどういう意味? 初めて会った時に広報役を務める兄の克明さんに尋ねたところ、ラテン語で「農業革命」っていう意味です! と臆面もなく答えが返ってきた。
ラテンx革命と聞いてカストロ将軍と共にキューバ革命を成し遂げたチェ・ゲバラを勝手にイメージしてしまったが、目の前に立っている若者4人を見ていると革命という物々しい雰囲気は全く感じられず、ニコニコと楽しそうに農業をやっている若者達にしか見えなかった。音楽好きの仲間が集まってバンドを結成したんです♪ という感じで。
よくよく話を聞いていくと「革命」と名付けたのは地域や仲間を大事にして農業をより良いものに変えていきたいという想いからだという事が分かった。
革命家というよりは仲間・友達を意味する「アミーゴ」の方がしっくりくる。何となくそう思ったが、優しい顔立ちの後ろに革命家の魂(ソウル)が眠っているに違いない。神社に和御霊(にぎみたま)と荒御魂(あらみたま)の二つの顔があるのと同じ様に。

アグレスノーバで主に栽培しているのはキャベツ、コールラビ、カボチャ、ハラペーニョの4品目。コールラビとは蕪(かぶ)の様な形状をしたドイツのアブラナ科作物でキャベツの苗に偶然混ざっていたところから栽培を始めたとの事。野良ネコだった猫を可哀想だから飼ってあげることにしたという様な感じだが、代表の花積義人さんに言わせると運命的な出逢いと感じたそう。野菜としての知名度もなく流通に乗せるのが難しそうと筆者などは思ってしまったが、野菜に対しての愛を感じるエピソードでもある。
そういえば花積義人さんの座右の銘は「敬天愛人」。いつもニコニコと接してくれて人が好きなのは話していてもすぐに伝わってくるが、実は昆虫が大好きという別の顔がある。幼少の頃から虫が好きで昆虫博士になりたかったという彼が農業を目指すきっかけになったという「天敵農法」。現在のところは「天敵農法」にまでは辿り着けていないが、竜洋キャンプ場というキャンプサイトに圃場が近いという事もあり、キャンプに来る子供連れのお客さん向けにカブト虫、クワガタ取りを教えてあげたら?という話はしている。圃場の周りは雑木林が残っており、いかにもいそうな雰囲気はある。農場長の松村俊耶さんがブナシメジ、メンバーの栁澤雅人さんがシイタケ栽培に興味を持っており、椎茸・シメジ狩りと併せてホダ木に寄って来るカブト虫、クワガタ虫をキャンプ客に売ったら?という筆者の妄想に近いアイデアに対しても少年の様なキラキラした瞳で真剣に話を聞いてくれるのも嬉しい。

 

花積義人さんのお兄さんである花積克明さんはメンバーの中で最年長であり髭を生やしている事もあって筆者などは「アニキ」と呼んでいるが、偉そうに兄貴面をしないところがメンバーからもお客からも好かれている所以と思う。メンバーの中では異色の存在でグラフィック・映像・Web製作を手掛ける「アルトテレス工房」というデザイン事務所を個人事業として営んでいる。農園の営業・広報役を務めており、筆者との接点もGRWRS(グロワーズ)・明京商事(株)の宣伝コンテンツ製作をしてもらっているという事がメイン。
弊社がドイツの石灰窒素「ペルカ」の輸入総代理店となった際に輸入元のアルツケム社2名が来日し、ペルカのPR動画製作を事前の下打ち合わせもなしに即興でやってもらった事で「アニキ」とは奇妙な信頼感・親近感が生まれた。ペルカの輸入総代理店となって初めて会ったドイツ人担当者と一緒に訪れたアグレスノーバのキャベツ圃場で、ドイツ人担当者に脚本もなしにぶっつけ本番で動画に出演してもらってPR動画を製作した事をきっかけに今ではペルカのパンフレット製作、GRWRSのSNS広告などで農業の魅力を伝える取り組みを続ける。圃場でのPR動画製作の打上げでみんなと一緒に行った浜松市のドイツビアガーデンでドイツ人担当者とも交流が深まり、ザウワークラウトの秘伝レシピを伝授されるまでになった。


一流の広告・編集者には「知己」「稚気」「痴気」の3つのチキが備わっていると聞いた事があるが、「アニキ」とドイツビールで乾杯しながらそう思った。「乱痴気」にはならない一定の節度もあり、筆者の勝手な想いもあるがGRWRSで1コーナーを受け持ってもらおうと思っている。グラフィックの世界から農業の世界に足を踏み入れ、農業の泥沼?にすっかりハマってしまった感があるが、二刀流が虻蜂取らずになるのではなく、相乗効果で二刀とも輝くという事は大谷翔平選手の獅子奮迅の活躍で証明されている。農業にもマーケティング・広報は重要であり、今後とも二刀流で研鑽を重ねていって欲しいと切に願っている。

アルトテレス工房製作ペルカPR動画・パンフレット



就農を開始して8年目を迎えたアグレスノーバだが、これまでの道のりは平坦ではなく、紆余曲折、挑戦と失敗の連続だったそう。大自然を相手とした仕事だからこその苦労-台風で圃場全体が浸かったり、新規営農の圃場で雑草が大繁殖したりと筆者が見ているだけでも苦難は数々あったものの、その都度乗り越えて強くなってきたという感じがする。
今年から営農面積を14haに増やし、花積代表の研修生時代の同期生であった岡本拓磨さん(31歳)が新たにメンバーとして合流。岡本さんはアグレスノーバの農業に対する取り組み方や価値観に共鳴してメンバー入りを決めたとの事。
農業が好きなメンバーが集まって農業アミーゴの輪がさらに拡がりつつある。ペルカを使ってキャベツ栽培が上手く行った時も近隣の生産者に惜しげもなくポイント・ノウハウを教えてくれた。筆者の様な昭和生まれ世代の人間には「競争」「競合」と感じてしまう事でも平成生まれを中心とするアグレスノーバのメンバーは「融合」「共生」へとしなやかに、爽やかに、さりげなく変化させて行く。ひょっとしたら彼らが目指す「農業革命」とはそういう事なのかも知れない。
だとすると革命は農業に限った話ではなく、「今だけ」「金だけ」「自分だけ」という、ともすると世俗的、利己的、近視眼的になりがちな現在の世の中の風潮にひっそりと革命を起こす。個性豊かなメンバーが集まるアグレスノーバ。彼らによる農業革命の今後に期待したい。

 

Agresnova【静岡県磐田市の農園アグレスノーバ】

『アルトテレス工房』農業特化のデザインワーク

 

三宅耕司(明京商事株式会社)

GRWRSを監修。主にYara社海外法人の記事の翻訳を担当。
Yara社が掲げる“生産者中心 Farmers-Centric”の理念をGRWRSの記事の中にも反映・実践できる様にしたいと思っております。
農法・使用する農業資材はライフスタイル、価値感が人それぞれで違っているのと同じ様に生産者によって個性があっていいと思うし、そうあるべきとも思いますが、どの農法にでも通底するようなエッセンス・根拠は必ずある筈と思ってGRWRSの記事製作を行っています。
野球選手の評価がセイバーメトリクスという新しい指標によって変わった様に肥料の世界においても新しい視点・評価の在り方が普及・発展し、生産者にとって最適な資材が意図をもって選択され、使用されることを願っております。
そのためにも肥料のサプライヤーの立場から情報が偏らないように、非対称とならないような情報発信を心掛けていきたいと思っております。

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