水稲栽培における栄養素の役割

窒素とカリウムが水稲栽培で最も量が多く必要とされる栄養素です。

窒素

窒素は収量に関係するすべての指標 (例えば、一穂当たりの籾数、稔実率(%)、穀物タンパク質含有量等) に影響を与えるため、高収量を達成するには十分な窒素の供給が必要です。 同時に窒素欠乏は水稲栽培において最も発生しやすい栄養欠乏症状です。



Ref: Yara, Hanninghof

窒素はアミノ酸、核酸、クロロフィルの必須成分です。 窒素が不足すると発育が阻害され古い葉から順に植物全体が黄色になります。
一般的に窒素は他の栄養素と比較して水稲の収量に最も密接に関係する栄養素です。
収量を取るためには適切な窒素量に気を付けることが重要です。窒素量に気を付けることによって環境への影響も最小限に抑えることが出来ます。
水稲の窒素の必要量は期待する収量レベルによって異なり、これは土壌や気候 (特に日照量) および他の栄養素の供給とも関連しています。

窒素は収量に関係する全ての指標に影響を与える

左グラフ                  右グラフ
横軸:1haあたりの窒素量           横軸:1haあたりの窒素量 
縦軸:左 穀物収量 トン/ha         縦軸:左 穂数/㎡ 
縦軸:右 分げつ数 定植60日後/㎡      縦軸:右 1穂あたりの熟粒数 




湛水状態ではアンモニア態窒素(NH4+)が水稲に取り込まれ易い窒素形態ですが、硝酸態窒素(NO3-)も吸収します。 複数の研究で硝酸態窒素(NO3-)を栄養溶液に添加するとトータルの窒素吸収量がかなり増加することが分かっています。 硝酸態窒素ベースの窒素は取り込まれる前に脱窒する量が多いので元肥で使用するのには適していませんが、対照的に幼穂形成後の水稲は硝酸態ベースの窒素の大部分が脱窒する前に非常に効率よく吸収されます。

窒素の一般的なガイドライン

• 穀物収量1㌧あたり総窒素量15-20kgを目途に施肥します (乾季より雨季の方が少ない)。
• 総窒素量を 2~3 (雨季) または 3~4 (乾季) に分割して施肥します。
• 肥沃な土壌 (窒素肥料なしで 3.4 トン/ha以上の穀物収量がある圃場)では、田植え時に元肥で窒素を必要としないことがよくあります。
• ハイブリッド米の場合は常に元肥で窒素施肥が必要です。
• 窒素の要求量が最も高い時期は分げつ後から幼穂形成までの間です。
• リン酸肥料やカリウム肥料との比較で窒素肥料は残留効果が小さい。
(参考文献: Dobermann and Fairhurst, 2000)

リン酸

植物体内でエネルギーの貯蔵と移動、細胞膜の完全性を維持する役割を主に担っています。リン酸は植物内で可動性があり、分げつ、根の発達、開花を促進します。 これは成長の初期段階 (分げつ期など) で特に重要です。 イネの根系がまだ完全に発達しておらず且つ土壌からのリン酸の供給が少ない場合はリン酸肥料が必要です。

リン酸欠乏の症状

• 葉が直立し分げつが少なくどす黒い葉色になる。
• 茎が細くなり植物の成長が遅れます。
• 若い葉は健康そうに見えるが、古い葉は茶色になって枯れていく。
• 中程度のリン酸欠乏症は圃場で認識するのが難しい。

リン酸欠乏になる主な原因

• リン酸が固着して作物に吸収されない状態になっている。 (例えば酸性硫酸土壌など低pHで大量の活性 アルミニウム、鉄が土壌中にあるとリン酸と結合して不溶性リン酸化合物を形成して作物に吸収出来なくなる)
• 無機肥料としてのリン酸施肥が不十分。
• 植物密度が高く根系が浅い傾向になる直播でより発生しやすくなります。

リン酸の一般的なガイドライン

5~7 トン/haの収量を維持しながら穀物や稲藁によって失われるリン酸を補充するためには、肥料のリン酸量を 15~30 kg P/ha (35~70 kg 五酸化二リンP2O5/ha) の範囲にする必要があります。
出穂時にリン酸を葉面散布することは、低リン酸土壌で収量を増やすための効率的な手段になります。

カリウム

カリウムは浸透圧調節、酵素活性化、気孔による蒸散の調節、同化物の輸送などの機能を持っています。 カリウムは厚膜組織の木質化に関与しているため、植物の細胞壁に強度を与えます。 カリウムは分げつに対して顕著な効果はありませんが、穂当たりの着粒数、有効熟数の割合、および千粒重を増加させる効果があります。

カリウム欠乏の症状

•葉の縁が黄褐色または暗褐色の斑点が古い葉の先端に最初に現れやがて全体がどす黒くなってきます。 (カリウムは植物体内で非常に可動性があり、再移動します)。
• その他の症状としては特に高温多湿の条件下で、倒伏の発生率の増加、病気の発生率の増加、早期の葉の老化、葉の萎れ、および葉のねじれが挙げられます。 その結果未熟米、くず米が増加します。

カリウムの一般的なガイドライン

5-7 t/ha の収量を維持しながら穀物や稲藁によって失われるカリウムを補充するためには、肥料のカリウム量を20-100 kg K/ha (24-120kg 酸化カリウムK2O/ha) の範囲にする必要があります。
ハイブリッド米は、近交系の現代品種よりも多くのカリウム(ほとんどの土壌で 60~120 kg 酸化カリウムK2O/ha) を常に必要とします。

カルシウム

カルシウムは特に細胞壁・膜の形成と機能強化、および細胞壁の強度を高めるために重要です。

カルシウム欠乏の症状

• カルシウムは植物体内で新しい成長点に再移動されません。 そのため通常カルシウム欠乏の症状は若い葉に最初に現れます。
• 若葉に黄褐色の裂け目ができ、葉の先端が丸まる。
• カルシウムは白葉枯病などの病気に対する抵抗力を高めます。



カルシウム欠乏になると根の生育障害・機能障害を招き、作物全体が鉄に関連する障害を受けやすくなります。
左:通常の根の生育(Control) 右:カルシウム欠乏の根の生育

カルシウム欠乏症は酸性で栄養素の流亡が激しくCEC が低い土壌でよく起こります。 カルシウムは酸性硫酸土壌での植物の生育不良に関連する重要な要因になっていると考えられています(Rorison, 1973)。 酸性硫酸土壌で栽培された作物ではカルシウムとマグネシウムが乾物生産量に対して高い正の相関関係を示すことが観察されています(参考文献Attanandana, 1982)。

カルシウムの一般的なガイドライン

• 稲わらを圃場に戻すことは、植物の利用可能なカルシウムを維持するのに役立ちます。
• YaraLivaトロピコート (硝酸カルシウムCaNO3) を幼穂形成期以降に与えるとカルシウムの植物体内での利用効率が高まります。

硫黄

硫黄はアミノ酸のシステイン、システイン、メチオニンの構成要素です。 硫黄は炭水化物の代謝に関与する植物ホルモンのチアミン(ビタミンB1)とビオチン(ビタミンB7)の中に含まれています。

硫黄欠乏の症状

• 若葉を中心に作物全体が薄緑色になる。
• 若葉の先端が白化する。
• 窒素欠乏と対照的に硫黄欠乏の場合は若葉の方が古い葉より薄い黄色になる。
• 硫黄欠乏の症状は窒素欠乏の症状に似ています。 硫黄欠乏を特定するためには植物組織の分析を行うことが重要となります。
• 収量の低下を防ぐためには硫黄欠乏の症状を早期に発見する必要があります。
• 硫黄欠乏の危険レベル: 分げつと開花の間に葉組織の硫黄濃度が0.1%以下、または 窒素:硫黄比が1:15以上の場合は硫黄欠乏と判断されます。
(参考文献Blair et al. 1980, In: Dobermann et al. 1998)

硫黄の一般的なガイドライン

• 稲わらを取り除いたり燃やしたりする代わりに圃場にすき込みます。
• 硫酸塩(Sulphate-S)はすぐに植物が吸収することが出来ますが、硫黄元素(S)は植物が吸収出来る様になるためには酸化される必要があります。
• 硫黄は分げつに必要なので、早期に、できればリン酸のように播種時に与えることが好ましいです。最大分げつを迎えるまでに硫黄を作物に全く与えない(吸収されない)状態になると、収量が約1/3にまで減少することがあります。
• 中程度の硫黄欠乏の場合は 10 kg S/ha、重度の硫黄欠乏の場合には土壌に20~40 kg S/ha を施肥します。

亜鉛

亜鉛はオーキシン代謝、クロロフィル生成、酵素活性化、シトクロムおよびヌクレオチド合成、細胞膜を健常に保つなどの複数の生化学プロセスに不可欠です。
亜鉛欠乏は水稲で最もよく見られる微量栄養素障害です。 亜鉛欠乏は現代的な品種の導入、水稲単作、多毛作、高度化成肥料の使用、亜鉛除去の増加に伴って増加しています。 ブラジル、インド、フィリピンの低地で栽培する水稲で亜鉛欠乏の事例が数多く報告されています (Fageria et al. 2011)。

亜鉛欠乏の症状

• 移植後2-4週間で葉の上部に茶色の褐色斑が現れ、植物の成長が不均一になります。
• 重度の亜鉛不足の場合は分げつ数が減少するか分げつが止まることさえあります。
• 組織分析をした場合亜鉛の適性レベルは25~100 ppmですが、亜鉛が20 ppm を下回ると欠乏症状が現れます (In: Naik and Das, 2007)。

亜鉛の一般的なガイドライン

• 全層施肥よりも土壌表面にばら撒き施肥した方が効果的です。
• 硫酸亜鉛が最も一般的に施用される形態です。
• 推奨される量は水稲の品種によって異なります。
• 葉面散布は土壌中で植物が利用できなくなる亜鉛を減らすという点で利点があります。
• YaraVita Zintrac 700(訳者注:Yaraの液体肥料 日本では未発売)を0.5~1ℓを最大分げつ期と幼穂形成期に葉面散布します。
• 亜鉛種子処理は土壌への施肥または葉面散布よりも少量の亜鉛で済むという点で経済的で便利であるという利点があります。




亜鉛種子処理を行った場合の穀物収量は行わない場合と比較して大幅に改善されました。米国での標準推奨量となる11 kg Zn ha-移植前全層施肥した場合の収量とほぼ同等の結果でした(Slaton et al. 2001)。

ホウ素

ホウ素は細胞壁の生合成、組織と原形質を健常に保つのが主要な役割です。 炭水化物の代謝、糖の移動、木質化、ヌクレオチド合成、呼吸に必要です。

ホウ素欠乏の症状

• 草丈が低くなる。
• 新しく出てきた葉の先端が白く丸くなる(カルシウム欠乏症状と似た症状)
• 生殖成長期でホウ素欠乏の場合、穂および小穂の形成、着粒および穀粒の充填が制限される。 (Lordkaew et al. 2013)
ホウ素は植物体内で再移動されません。つまり穀物に含まれるすべてのホウ素は生殖成長期の段階で取り込まれなければいけません。

穀物内の栄養素
ホウ素
植物体内を再移動 0%
登熟機に取り込まれる 100%

水稲におけるホウ素の吸収と分配


縦軸:収穫時のホウ素量を100%とした場合のホウ素吸収量(%)
横軸:日付 幼穂形成期(Panicle Initiation stage) End of Heading(登熟終盤)


ホウ素欠乏を防ぐためには0.5~3 kg B/haを移植前に元肥として散布するか、または生育初期に葉面散布します。
ホウ素は湛水状態では移動性が高く根域の下に移動する可能性があるため、過度の漏水は避けるべきです。

Yaraの硝酸カルシウム肥料

YaraLiva®は硝酸カルシウムベースの肥料です。即効性の硝酸態窒素14%と水溶性カルシウムが26.3%含まれています。-イオンの硝酸態窒素と+イオンのカルシウムが互いに干渉することなく、即座に作物体内に取り込まれます。
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本記事は、Yaraマレーシア法人提供の農業科学情報をGRWRSが翻訳、記事化し掲載しております。

Yara International ~世界最大の老舗肥料メーカー~

Yara Internationalは、ノルウェーに本社を置く世界最大の老舗肥料メーカー。
しかし、ただ肥料を供給しているだけではありません。世界人口の増加や 異常気象・地球温暖化といった問題により生産環境・食料事情が厳しくなる中で、「環境に優しい農業」をどうやって実現するのか?という課題に取り組んでいる「環境企業」でもあります。

また、Knowledge Grows というスローガンのもと、100年を超える長い歴史を通じ、世界各国の農業者にアグロノミー(農業科学)の最先端の情報を惜しみなく提供してきました。肥料メーカーでありながら、その本質は情報提供者であり地球環境を真剣に考える教育者・啓蒙者でもあります。

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