日本で実験してみましたコーナーNo.1 :アブラナ科作物にはロケットスタートが重要

日本で実験してみましたコーナー

GRWRS管理者の三宅と申します。Yaraイギリス、アメリカ等欧米の営農指導の記事を中心に翻訳・紹介をしております。
海外の事例ばかりを引き合いに出して、アメリカでは・・・、イギリスでは・・・、としたり顔にいう人のことを出羽守(ではのかみ)というらしいです。
タカアンドトシのコントでも「欧米か!」というお決まりのツッコミがありますが、GRWRSの場合は出羽守になりたい訳でも、「欧米か!」とツッコミを入れられたい訳でもありません。単純にGRWRSの記事コンテンツの元記事の殆どが欧米のものしかなかったためこれまではそうならざるを得ませんでした。またこれを日本の環境に置き換えて検証を行ってくれる強力な助っ人(外人ではありません)がこれまでいませんでした。
出羽守脱却のために何とかせねばいかんと思っていたところ、GRWRSで紹介した過去の記事をもとに日本で実験してみたらこうなった的な記事を弊社の栽培アドバイザーから提供頂けることとなりました。
「ファクトチェック」とかいうと「欧米か!」となりそうなので、「日本で実験してみましたコーナー」として今後不定期ながら投稿開始します。
第一弾では「アブラナ科作物にはロケットスタートが重要」を取り上げます。

アブラナ科作物にはロケットスタートが重要

アブラナ科作物にはロケットスタートが重要」のファーマーズアカデミーの記事を読み、私は現場での施肥指導の経験を踏まえて「全くその通り」と思いました。
その一方でYara社の化成肥料でも一般に販売されている速効性化成肥料でも肥効的に大差なく初期生育に大差はないのではないか?との想いもあり、半信半疑で一度Yara社の化成肥料の肥効を感じてみたいと思い肥効試験を行う事にしました。
今回はその結果を報告したく思います。

作物は2021年10月7日定植、年内収穫予定のブロッコリー(早生種95日タイプ)にて試験を行いました。ブロッコリーを選択した理由は外葉の大きさが花蕾の肥大に大きな影響を及ぼし、生育中花芽分化をする(一般的にブロッコリーの花芽分化は本葉5~6枚時に17℃以下の低温で誘発されます。 早生種はそれよりも早い時期に花芽分化しやすく、比較的高い温度でも短い期間で分化します。)ので、より早く外葉形成を促進する必要があるので今回のテーマにて試験するにはうってつけの作物と判断したからです。
試験肥料は「Yara N555」、「Yara 217」で対照肥料は速効性肥料の汎用品である14-14-14を使用しました。元肥は窒素成分で18㎏/10a施肥しました。

試験を開始しましたが試験地(愛知県名古屋市)は、ほぼ1ヶ月間雨がほとんど降らない状況であり、通常だと定植した苗が枯死するぐらいの乾燥状態でしたが今回は小規模面積での肥効試験でしたので苗が萎れたら根元に潅水を行うような管理が継続しました。その結果活着が非常に悪く「ロケットスタート」させるには少々辛い環境になりました。ただ苗が枯れる事はなく、遅れながらも徐々に外葉が大きくなって来るような状況でした。



定植後3日。下葉が黄色くなって来ました。

定植後11日経過



ようやく活着して来て葉数も増加して来ました。この時点ではまだ生育差は感じられませんでした。

定植後2週間を経過して来ると急激に外葉肥大が進んで来ましたが、ここでYara社製の肥料の生育が旺盛になり、見た目に生育差が出て来た印象を受けました。
根圏が広がる毎に肥効が出て来て生育が急激に進んで来た印象でした。
地温が下がって行く時期の作型においては徐々に硝酸化成作用が遅くなって来るので、アンモニア性窒素と硝酸態窒素の土壌水分中のバランスがアンモニア性窒素に偏って葉色が濃緑になって、外葉肥大が停滞する傾向があります。
Yara社の肥料は硝酸態窒素とアンモニア態窒素のバランスが良いので地温の変化に関わらず鮮やかな葉色で素直に生育して外葉肥大が進んでいるように感じました。

この時点で1回目の生育調査を実施して数値として「ロケットスタート」出来ているかの判断をする事にしました。(定植後26日)

11/1 調査結果



調査結果としては明らかにYara化成の葉数が進み、外葉肥大も大きく、葉色の値も高い(葉が厚い)葉が充実している結果となり、見た目通りの結果になりました。
Yara化成は株間が葉で埋まりボリュームのある状況なのに対して14-14-14区は株間が葉で埋まっていない状況でありました。(N555と217の差はあまりない印象。)
初期生育時の環境に恵まれていない中で定植後1ヶ月の生育差がここまで見えたのは個人的にはあまり経験がなく、Yara化成の早い肥効を確認出来ました。
ただ「早く効いた分 生育中期以降に肥効が息切れするのではないか?」との想いがあったので継続して経過を観察する事にしました。

11月は降雨もあり生育するには悪くない気候になっておりました。
外葉が充実しながら生育が進んでおりましたが11月20日頃には各区共に花蕾が肉眼で確認出来ました。よって外葉の形成については11月中旬にはほぼ終了していた事になります。花蕾が確認された際に生育調査を行いました。

11/26生育調査結果




調査結果は前回調査の結果と変わらない傾向が維持されておりました。
特にYara217については外葉の充実が顕著であり「カリは初期生育を確実にするために必要な栄養素」である事が証明された形となりました。
カリの効果は体内に光合成産物や養分を運ぶ「運び屋」的な働きをすると言われており、花蕾肥大にも重要な要素になるので今後の生育にも期待が持てました。
N555についても旺盛な生育になっており10葉目抽出ぐらいまでに外葉を充実させるように使用肥料や施肥設計を考える必要がある事を認識しました。
また葉数、花蕾の肥大もYara化成の方が進んでおり、外葉の生育の重要性を確認出来ました。14-14-14も決して悪い生育ではなく花蕾の肥大には十分な生育レベルであると思われました。今後は収穫まで外葉が極端に黄化する事なく、花蕾肥大が順調に進むかが注目する必要があると思われました。

花蕾肥大は順調に進みましたが初期生育時の活着の遅れが影響して結局収穫開始は年明け早々となりました。(2022年1月6日より収穫開始)




収穫は2022年1月6日、13日、20日に実施しました。収穫のピークは1月13日であり大部分の花蕾がLサイズ以上になり収穫出来ました。
1月20日に収穫した花蕾はほぼMサイズもしくは規格外でありましたので比較的揃って収穫出来た感じだと思います。
Yara化成については1月6日の収穫時に2Lサイズになっていたものが多く収穫物の2L率が高くなりました。14-14-14の2L率はYara化成と比べると低い値になり、初期生育時から外葉肥大が旺盛だった事がプラスに働き、花蕾肥大を促進していたものと思われました。
収穫時期が遅れた為、低温によるアントシアンの発現はあったものの花蕾に生理障害はなく、花蕾の形も綺麗であり、まずまずの出来であったものと思われました。

この試験では「アブラナ科作物にはロケットスタートが重要だからこそ作物に即座に吸収される硝酸態窒素ベースのYara化成を使用しないと本当のロケットスタートにはならない」事を実感しました。
またリン酸についても色々な形態(水溶性リン酸、ポリリン酸、く溶性リン酸)にて含有している為、生育期間中安定して無駄無く効果を示している印象であり、窒素の肥効を際立たせているように思いました。
(同じYara化成でもリン酸成分の割合が低い銘柄の生育はN555、217と比較すると少々劣る結果になっておりました。)
土壌分析結果として置換性カリの値が低くないような土壌にはN555、低い土壌には217を使い分ける事も出来ると思いました。

是非この効果を皆様にも体験して頂きたいです!

金峯浩(明京商事株式会社)

明京商事㈱の親会社である「日東エフシー株式会社」に勤務して30年余り。 
末端農家に対する栽培技術指導(特に施肥技術の指導)、栽培や肥料に関する講習会の講師を務め、新商品開発、肥料の肥効試験等の業務に携わった後、現在は主に明京商事株式会社の栽培アドバイザーとして北海道を中心とする全国各地で農家様と密に対話しながら活動をしております。

Yara社が掲げる“生産者中心 Farmers-Centric”の理念に共感して、生産者様が
Yara社をはじめとする様々な取扱商品を使って頂いた際に満足して頂ける為に
どのようなアプローチをすれば良いのかについて考えながら様々な提案をして
生産者様の良き相談相手になれるよう業務に取り組んでおります。

今後“GRWRSに掲載されているYaraの海外事例紹介記事の内容を参考にして栽培試験を実施。栽培を日本の環境で行った場合の率直な感想と気付いた点を分かりやすく生産者様に伝える事が出来たらと思っております。

また栽培現場にてお会いする事もあると思いますので今後共よろしくお願いします。

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