窒素の使用効率-いかにして改善するか

窒素使用効率(NUE: Nitrogen Use Efficincy)は窒素の総投入量とそこからどれだけ収穫物として回収できたかの関係性を理解するのに役立ちます。 窒素の使用効率には作物が栄養素として吸収されるもの、代謝されるもの、再分配されるものなどあり複雑ですが、作物栄養管理を適切に行うことで改善することができます。それによって施肥の効率性、収益性を高め、生業として農業を続けていくための持続可能性が向上します。



窒素使用効率(NUE)とは何か?

窒素使用効率(NUE)は窒素の総投入量(インプット)と回収量(アウトプット)との関係を理解する方法です。 最も基本的な形では窒素の使用効率は利用可能な全窒素(肥料として施肥した窒素分+土壌中にある無機窒素)の単位(kg)あたりの収量(kg)で表すことができます。状況によっては土壌中にすでに存在する無機窒素分を除くことで計算を簡略化する方法もあります。簡略化した方法では、単純に肥料として施肥した窒素分に対しての回収量を比較計算します。この簡略法では連作を重ねても土壌中にある利用可能な窒素量は常に一定であるという前提のもとで計算します。実際には土壌中の利用可能な窒素量は変化しますので、完璧に窒素使用効率を計算しようとすると、他のいくつかの要因もつぶす必要があります。
1. 窒素吸収効率(NUptE:Nitrogen Uptake Efficiency) 根が成長して土壌中に潜行する過程で作物が根から窒素を吸収する効率。 これは作物が利用できる窒素量と、利用できない窒素も含めた土壌の全窒素量とを比較計算することで表すことが出来ます。土壌中にある窒素全量に対して作物が吸収(利用)することが出来る窒素の割合がどれだけあるか?の指標です。
2. 窒素利用効率(NUtE:Nitrogen Utilization Efficiency) 作物が根から取り込んだ窒素を収穫可能な穀物に変換する効率を表します。作物が根から吸収した窒素が生産者にとってのアウトプット(収穫物)として還元された割合を示す指標です。
3. 窒素収穫指数(NHI: Nitrogen Harvest Index) これは作物が吸収した全窒素を分母、穀物として収穫された全窒素を分子として割り算することで算出できます。 この指数は窒素の利用を根だけではなく葉から光合成によって取り込まれて転流される分も考慮する指標です。.
これらすべての中で重要な指標の1つは、施肥した肥料成分の回収率です。 これは通常肥料回収効率(FRE:Fertilizer Recovery Efficiency)と呼んでいます。 世界的にこの値はこれまでは最低でも33%程度と計算されてきました。 ただし数々の調査と圃場からのデータ収集の結果からこの数値を最大で80〜90%に高めることが出来る可能性があることが示されています。

窒素使用効率(NUE)はどうやって測定するか?

窒素使用効率(NUE)を測定するためにはデータ収集の精度と管理がすべてとなります。 必要となるデータは以下となります。
1.単位面積当たりの収量
2.窒素供給量(a+b+c)
 a. 施肥前に土壌中に残存している窒素量
 b. 有機肥料として施肥した窒素量
 c. 無機肥料として施肥した窒素量
3.穀物窒素含有量 (収穫された穀物のタンパク質含有量÷窒素量)

検体がすべて同じ含水率(乾燥重量)に補正されていることを確認してください。それによって計算の精度が上がります。
実例:
窒素出力量(アウトプット)
100%乾燥重量としての穀物収量= 10トン(t)=10,000kg/ ha
100%乾燥重量のうちの穀物タンパク質含有量= 13.5%
穀物窒素含有量 (穀物タンパク質含有量÷窒素量)= 13.5 / 5.7 = 2.37%
総窒素生産量=穀物収量x穀物窒素含有量= 10,000 x 2.37%= 237 kg N / ha

窒素入力量(インプット)
窒素施肥前の土壌窒素供給= 80 kg N / ha(土壌中残存窒素+作物残幹・残根窒素)
有機肥料として施肥した窒素量= 40 kg N / ha
無機肥料として施肥した窒素量= 220 kg N / ha
総窒素供給量= 80 + 40 + 220 = 340 kg N / ha
窒素使用効率(NUE)=窒素出力/窒素入力= 237/340 = 70%

窒素使用効率(NUE)をどうやって改善するか?

窒素使用効率(NUE)の3つの明細、つまり窒素吸収効率(NUptE)、窒素利用効率(NUtE)、および窒素収穫指数(NHI)を使うことで、3つの窒素使用効率の要素のうちどの部分に最も改善余地があるのかを突き詰めて考えることが出来ます。 つまりは窒素使用効率の3つの要素を個々に測定することが出来れば窒素の管理が出来るようになります。

窒素吸収効率(NUptE)の向上の方法

窒素吸収効率(NUptE)を向上するための第一歩は成長する作物の根が土壌塊全体に繁茂することを可能にする環境を作り出すことです。 そのためには適切な灌漑と中耕技術によって良好な土壌構造が得られるように可能な限り土壌の物理性を向上させることが不可欠です。
土壌の構造は土壌の栄養素、より具体的には陽イオン(カチオン)含有量(Mg:苦土(マグネシウム)、Ca:カルシウム、Na:ナトリウム、K:カリウムなど)の影響を受けます。 土壌構造に影響を与える最も注目すべき栄養素はMg:苦土(マグネシウム)とCa:カルシウムです。 苦土(マグネシウム)の濃度レベルが上昇して支配的になると土壌は分散し団粒構造を失います。 苦土(マグネシウム)の一部をカルシウムで置き換えることは団粒構造を改善するために展開できる土壌管理技術です。 カルシウムは土壌を「凝結」させ団粒化を促進します。 有機物レベルを上げると栄養素の保持能力(保肥力)が向上するだけでなく、土壌構造も改善され水分保持能力と通気量が増加します。
根の質量が大きく根毛が伸びる作物は、土壌の栄養素を除去する能力が高くなります。 この根の質量と根毛が伸びる範囲は水はけが悪い土壌だと制限を受け、浅く小さくなります。 栄養素は健全な根を育てるために必要ですが、栄養素は4つの適切な(Right)施用法によって効果に差が出ます。すなわちRight Source(適切な肥料成分源)、Right Rate(適切な量)、Right Time(適切な時期)、Right Place(適切な場所)です。
まず第一に栄養素とその肥料成分源の選択が重要です。硝酸塩の形態の窒素とリン酸塩の形態のリン酸を施用することで、根の表面積を大きくし大きな根塊を形成することに繋がり、栄養吸収効率を高めます。
これら栄養源(硝酸塩、リン酸塩)は作物に取り込まれやすい形態であるということも重要なポイントです。 投入量と時期も重要な役割を果たします。たとえば、小麦の初期生育期では、窒素の割合が高いと根の数が増加し分げつに良い影響をもたらします。窒素効率を向上させるためにはリン酸塩散布のタイミングも重要です。窒素と同様に作物の要求に合わせることが重要です。
窒素を適切なタイミングで施用(作物に吸収させる)することは窒素効率の3要素全ての効率を高めるために重要です。 すべての主要な耕作作物(穀物と油糧種子)は地域にもよりますが3月から5月にかけて窒素の要求量が最も高くなります。 施肥の回数を何度かに分けて(最低3回)行うことが作物の窒素要求と供給を同期させるために役立ちます。施肥を複数回に分けるもう一つのメリットは生育状況、圃場状況、気候状況を見ながら残りの施肥量を調整することも可能となることです。 N-Testerなどの可変施肥ITを活用すれば同じ圃場の中でも場所によって施肥量を微調整することも可能となります。
近年の実験ではこれら可変施肥ITの技術を利用することで生産者は70〜80%の窒素使用効率を達成できることが実証されています。

窒素利用効率(NUtE)の管理

作物体内に取り込まれた窒素が植物タンパクとして組成される効率(窒素代謝効率)を上げることが窒素利用効率(NUtE)管理の要諦となります。 窒素以外の他の栄養素が窒素代謝効率に及ぼす影響を調査した結果では、亜鉛欠乏は窒素の代謝を最大50%も減少させることが明らかになっています。亜鉛の他にマンガン、銅、モリブデンの欠乏も窒素代謝に悪影響を及ぼすことが分かっています。これら微量要素の欠乏も窒素利用効率の低下につながります。 これら微量要素の不足は英国の耕作作物ではしばしば見られますが、”YaraVita”などの葉面散布材で簡単に管理することが出来ます。 微量要素の不足は作物の窒素要求量がピークになる前の生育ステージ初期のうちに対処、解消されるようにすることが重要です。
(注)”YaraVita”は微量要素を濃縮した葉面散布材ですが、日本では販売しておりません。

窒素収穫指数(NHI)の管理

窒素使用効率方程式の最後のピースは、作物が窒素を吸収しそれを植物性タンパク質に転換した後このタンパク質(窒素)を成長中の穀物に再分配することです。穀物に含まれる窒素の約90%は、開花前の栄養成長時の葉、茎、根に含まれる窒素に由来します。穀物への窒素の転流は開花と受精が発生した直後に引き起こされるため、穀物への窒素の転流が損なわれないよう、開花と受精が不自然な形で時期尚早に開始されないようにすることが重要です。穀物への窒素転流は植物の導管・篩管を通して活発に行われるプロセスであり、窒素転流には導管・篩管部が損傷を受けていないことが重要となります。そのためには作物の構造(直立した茎と葉)を維持することが重要です。リン酸とカリウムには特定の役割があります。リン酸は植物のエネルギー貯蔵の鍵となり、カリウムは水分の損失を制御して植物のしおれを制御する気孔の開閉を制御する鍵となります。
窒素使用効率は窒素の摂取、代謝、再分配を含む明らかに複雑なプロセスですが、完全な作物栄養戦略を採用し、窒素管理の「4R」 Right Source(適切な肥料成分源)、Right Rate(適切な量)、Right Time(適切な時期)、Right Place(適切な場所)を考慮することで、生産性を向上させることができます。

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本記事は、Yara英国法人提供の農業科学情報をGRWRSが翻訳、記事化し掲載しております。

Yara International ~世界最大の老舗肥料メーカー~

Yara Internationalは、ノルウェーに本社を置く世界最大の老舗肥料メーカー。
しかし、ただ肥料を供給しているだけではありません。世界人口の増加や 異常気象・地球温暖化といった問題により生産環境・食料事情が厳しくなる中で、「環境に優しい農業」をどうやって実現するのか?という課題に取り組んでいる「環境企業」でもあります。

また、Knowledge Grows というスローガンのもと、100年を超える長い歴史を通じ、世界各国の農業者にアグロノミー(農業科学)の最先端の情報を惜しみなく提供してきました。肥料メーカーでありながら、その本質は情報提供者であり地球環境を真剣に考える教育者・啓蒙者でもあります。

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