ブドウから可能な限り最高の結果を得るためには主要栄養素と微量栄養素が正しいバランスが不可欠です。 ひとつの栄養素であれ不足が出ると収量が落ちたり、品質に影響を与えたりします。またブドウに必要な栄養素が即座に取り込まれる様な状態となっているかということも重要なポイントです。
主要栄養素
窒素とカリウムはブドウの健全な成長と収量に影響する重要な栄養素です。 ただしこの二つの栄養素は生育成長を長引かせ、生殖成長への切替えを遅らせることによって果実の品質が低下するリスクにもなり得ます。この二つの栄養素が必要なピークは開花期になりますがその前段となる発芽と葉の成長をサポートするために両栄養素が必要であり、開花後の果実の成長にもつながってきます。
窒素は通常春先のできるだけ早い時期と、収果後に葉が老化する直前の2回与えることが重要です。春先の出来るだけ早い時期に作物に吸収され易いタイプの窒素を与えるのは、生育ステージ初期の成長に必要となる有効窒素(作物に吸収される窒素)を与える意図であり、その為には作物が必要時に速やかに吸収される窒素であることが重要です。窒素の葉面散布は開花後に果実が成長する時期に追加の窒素が必要な際に使用します。
栄養素の除去量(ブドウ果実部位)
ドイツー白ワイン用リースリング(188件の試験の平均値)
縦軸:除去量kg/ha
横軸:N 窒素、P リン酸、K カリウム、Mg 苦土、Ca カルシウム
カリウムは果実の成長(サイズ)と収量を得るために重要です。 通常窒素よりも要求量が多く、窒素と同様のタイミングで施肥されるのが普通です。 果実以外の部位でもブドウのカリウムの要求量(除去量)は他のほとんどの栄養素よりも高くなっています。
生育期の乾燥期–そして夏の数ヶ月に–カリウムはブドウの木に即座に吸収されないことがよくあります。 土壌のカリウム濃度が低い状況下、特に紅葉の時期に葉面散布が必要になる場合があります。
カルシウムも比較的大量に必要とされる栄養素です。 窒素より重要度が高いとは言えないまでも同じくらいに重要な栄養素です。 カルシウムのうち約40%は葉と枝の成長に向かいますが、葉の出現と結実の間のタイミングで既に吸収されていることが重要となります。生育初期に水溶度の高い硝酸カルシウムを施肥してカルシウムを速やかに吸収させておくことで、カルシウムが最も必要とされる時期を逃すことなく供給することが可能となります。
K(カリウム)とMg(苦土)のバランスと収量の関係
フランス
縦軸:収量(トン/ha)
左棒グラフ:カリウムと苦土のバランスが取れている場合
中央棒グラフ:苦土が欠乏している場合
右棒グラフ:カリウムが欠乏している場合
苦土が欠乏すると収穫期の落果が増える原因となります。苦土欠乏は葉面散布で何とか収穫期までに修復が可能となる場合がありますが、カリウム欠乏は致命傷となり収量を大きく減らす要因となります。 苦土は土壌に施肥するのが王道であり長期的な観点からすると苦土欠による収量減のリスクを防ぐ戦略となります。リン酸の必要量は他の栄養素と比べてはるかに少なくなっています。
微量要素
微量養素は主要要素と比べて重要度は下がりますが、収量を取るためには微量要素の正しいバランスが不可欠となります。
鉄と亜鉛は微量要素の中では比較的多く必要とされます。 鉄が不足すると葉の成長が悪くなりその結果として果実のサイズと収量が減少します。 亜鉛欠乏は深刻な問題となることがあり、結実が悪くなったり、葉の形が小さくなったり、発芽が阻害される等の原因となり得ます。
葉面散布や灌水施肥は、土壌施肥よりも修復期間が早く済むということから収穫期までに何とか微量栄養素不足の問題を最小限に抑えこむという点で役立ちます。 たとえばマンガンと亜鉛を土壌散布した場合は取り込まれるまでに時間が掛かるので計算が複雑になります。灌水施肥で微量栄養素を補給する場合はキレート態となっていることが好ましく、その場合は根からの吸収が良くなります。
各栄養素のバランス
個々の栄養素単体で正確な要求量がどれぐらいなのかについては議論の余地がありますが、主要栄養素と微量栄養素のバランスについての重要性は疑う余地がありません。 例を挙げるとカリウムと苦土のバランスです。 両栄養素のバランスが取れていない場合収量とワインの品質双方に影響を与えます。
カリウムと苦土のバランスとアントシアニン含有量の関係
縦軸:果実中のアントシアニン含有量(mg/kg)
左棒グラフ:カリウムと苦土のバランスが取れている場合
中央棒グラフ:苦土が欠乏している場合
右棒グラフ:カリウムが欠乏している場合
必要栄養量の決定
土壌分析は土壌中のpH、有機物含有量、および陽イオン交換容量(CEC)を計測するために行います。これによって土壌中の栄養素の利用可能性(作物への吸収のされ易さ)と土壌中への栄養素の保持性向(作物への吸収のされにくさ)が分かります。 土壌分析は土壌中のカリウムとリン酸のレベルを計測するためと、陽(+)イオンの栄養素間のバランスが悪くなっている可能性(例えばK(カリウム):Ca(カルシウム):Mg(苦土)の比率)を示すために使うことが出来ます。また土壌酸度矯正の目的での石灰散布の必要性の有無も土壌診断で分かります。 ただし土壌分析で窒素の必要量を評価するのは良い方法ではありません。
葉分析を行うことによってブドウの栄養状態をより正確かつ迅速に評価することができます。 また症状にはまだ現れない隠れた欠陥を確認し、必要な栄養素のバランスを正確に特定することも出来ます。
葉分析も国によって分析に使用する部位が異なっており、フランスは葉全体、カリフォルニアは葉柄(Petiole)、南アフリカは葉端(Leaf blade)を使用する場合が多いです。 通常は登熟期または開花直後に葉分析を行うことが一般的です。
開花直後と登熟機の両方の段階での葉分析を推奨される場合もあり、房に一番近い葉/葉柄から少なくとも30の検体(サンプル)を取ります。
葉柄の葉分析における各栄養素の推奨値
品種:種なしトンプソン(スルタナ)、 開花絶頂時に房に近い部分の葉柄から取ったデータ
上データ(オーストラリア、カナダ、アメリカ、イタリアから収集したデータ)
Deficient:不足、Low:低い、Moderate:適当、High:高い
下データ(Yara南アフリカで収集したデータ)
At fruit set: 着花時、At Veraizon: 登熟機
Yaraがワイン用ブドウに推奨する肥料
YaraMila コンプレックス 217
12-11-17 + 20% SO3 – NPKが一粒一粒に配合された高度化成肥料。苦土と硫黄に加えて微量要素も入っており、屋外・ハウス栽培作物に幅広く使える理想的な肥料です。
YaraLiva トロピコート
15.5% N + 26% Ca –粒状硝酸カルシウム肥料で土耕栽培作物全般に適しております。
YaraLiva ニトラバー
15.5% N + 26% Ca + 0.2% B –作物に速やかに吸収される硝酸態窒素と水溶性の硝酸カルシウムにホウ素が添加された粒状硝酸カルシウム肥料。土耕用の作物全般に適しておりますがカルシウム欠乏、ホウ素欠乏が出やすいアブラナ科作物に特に効果を発揮します。
本記事は、Yara英国法人提供の農業科学情報をGRWRSが翻訳、記事化し掲載しております。
Yara International ~世界最大の老舗肥料メーカー~
Yara Internationalは、ノルウェーに本社を置く世界最大の老舗肥料メーカー。
しかし、ただ肥料を供給しているだけではありません。世界人口の増加や 異常気象・地球温暖化といった問題により生産環境・食料事情が厳しくなる中で、「環境に優しい農業」をどうやって実現するのか?という課題に取り組んでいる「環境企業」でもあります。
また、Knowledge Grows というスローガンのもと、100年を超える長い歴史を通じ、世界各国の農業者にアグロノミー(農業科学)の最先端の情報を惜しみなく提供してきました。肥料メーカーでありながら、その本質は情報提供者であり地球環境を真剣に考える教育者・啓蒙者でもあります。