”ヨーロッパの戦争-世界的な食糧危機”を読む

2月24日に始まったロシアによるウクライナの軍事侵攻は現在でも続いており、肥料の調達にも深刻な影響が出て来ております。
世界的な穀物生産地と肥料原料の生産地で起きている戦争の影響は一時的なもの局所的なものではなく、世界的にインパクトをもたらしその影響は長期化・恒常化していく懸念があります。
肥料が従来通り調達出来なくなるかもしれない! いたずらに危機を煽るつもりはありませんが、その時に備えておく必要はあると思います。GRWRS、明京商事としても肥料の効率的な使用方法、肥料を投入量で計算するのではなく対象作物の吸収量(使用効率)からアプローチを行う方法などを提言していきたいと思っております。
世界的な肥料サプライヤーであるYara社は肥料の安定共有とともにカーボンフットプリントの削減、肥料の使用効率アップの提言を行っております。
Yara社のCEOが発した3月1日付け発信と併せて過去の配信記事を読み解いていくと将来の備えとしてのヒントが隠されていると感じます。

ヨーロッパの戦争-世界的な食糧危機                      (2022年3月1日付けYara社CEO スヴェイン・トーレ・ホルセザー発信)




ロシアとウクライナは食糧供給という点において世界でも有数な大国であり、世界の脆弱な食糧システムを支えている国です。ロシアのウクライナ軍事侵攻は世界全体で見た食糧供給の点で豊かな地域と貧しい地域の双方に長期的に影響を及ぼします。ロシアへの依存を減らすことが不可欠となっています。
私たちは現在ウクライナで起こっている深刻な状況を非常に懸念しており、ノルウェー政府によるロシアの軍事侵攻に対する非難に対して完全に立場を同じくしております。 Yaraはウクライナの戦争地帯にも従業員がおります。ロシア軍の砲撃によりキエフのオフィスビルにも直接的に打撃を受けました。 幸いなことに私たちの従業員は無事でした。 その一方でYaraは世界中の食糧生産を支えるための肥料原料をロシアから大量に調達しております。(訳者注:当記事が配信された2022年3月1日付け時点での話ですが、その後3月9日付け配信でロシアからの肥料原料調達を完全に停止したことが発表されております。)
生命への差し迫った脅威、そして私たちが現在のウクライナで起こっている恐ろしい苦難に加えて、食糧の確保が今後何よりも重要なことになってきます。生命に直結しない製品やサービスであれば消費を減らすという選択肢がありますが、食糧は生きるために不可欠なものです。 2015年に国際社会は2030年までに飢餓を根絶することを決定しました。過去2年間で気候変動、コロナウイルスの世界的蔓延、ヨーロッパの天然ガス価格の高騰などのいくつかの外的要因によって食糧システムの脆弱性が露呈し、現在のシステムから変化の緊急度も高まっています。世界銀行は現在の食糧供給は安定こそしているものの、世界のほとんどの国で食料価格が上昇していることを強調しました。 2020年の時点でも世界の約8億人たちが空腹の状態で生活しています。これは2019年と比べて1億2000万人増加しています。今回の戦争はこの状態をさらに悪化させてしまう恐れがあります。国連世界食糧計画(WFP)の事務局長であるデビッド・ビーズリーは、これまででも十分に上がってきていた食料価格・燃料・物流コストが今回の戦争によって更に拍車がかかる。危機的な大惨事」とコメントし、今回の戦争でウクライナから逃げる300万人以上の人々を助けるためには並外れた支援・努力が必要だと表明しました。

ロシアとウクライナは、農業と食料生産の世界的大国です。

• ウクライナは世界有数の農業国の1つであり穀物の生産では世界で2番目に大きい国です。 戦争が起こっている現在は肥料・種子・水などの確保が次の収穫時期の収穫量を左右する重要な時期とも重なっています。最も悲観的な試算では施肥が出来ないまま収穫時期を迎えると次の収穫期の収量は50%減るとの示唆もあります。
• ロシアは小麦の最大の生産国の1つであることに加えて、肥料の主要原料の供給国にもなっています。 植物は生育するために窒素、リン酸、カリを必要とします。 窒素は空気中と天然ガスから生成されるアンモニアから主に供給されます。 天然ガスの重要性は2021年と2022年の初めのヨーロッパのガス価格の高騰を巡る議論の議題にもなっていました。ヨーロッパの天然ガス供給の40%はロシアから来ています。 塩化カリは古代に海底であった粘土層から抽出しますが産地は限定されており変化に対して特に脆弱です。 現在塩化カリの生産の80%がカナダ、ベラルーシ、ロシアの3か国に集中しており、そのうち海外に輸出される約70%の内訳は、カナダ(40%)、ベラルーシ(20%)、ロシア(19%)となっています。 肥料の主要要素3原料のヨーロッパ向け供給の25%はロシアに依存しています。

Yaraはウクライナの農業セクターに様々なソリューションを提供すると同時にロシアからは原材料を大量に購入しておりました。 私たちは常にその時々の規制・制裁・独自のガイドラインを遵守しています。 地政学的なリスクが低い時代であれば国境を越えて商品を自由に流通・調達することが可能でした。 現在は地政学的リスクが高くバランスも崩れているため、ヨーロッパの食料生産を担っている最大の肥料供給源であるロシアからの調達は制限を受けておりすぐに調達可能な代替先もありません。 今後起こり得る悲観的なシナリオの1つは世界人口の中でも限られた富裕な人たちだけしか十分な食料にありつけなくなるかも知れないということです。

食料と肥料の価格上昇は、短期的にはYaraの収益にプラスの影響を与える可能性があります。 しかしながら社会的および経済的視点で見ると長期的には社会情勢に合わせて収斂していきます。 Yaraのような民間企業の長期的な価値創造は世界の人々に食料が手頃な価格且つ持続可能な形で手に入れることが出来る食糧システムがあってこそ達成できるものです。 食糧供給が不安定な世界とは、世界の一部で飢饉・死亡率の増加、武力紛争・難民・暴動の発生、そして地政学的緊張をさらに加速させる恐れのある不安定な世界です。

今日現在の選択肢の数は限られていますが、国際社会が団結し、世界の食糧生産を確保し、ロシアへの依存を減らすために取り組むことが重要です。 これはロシアからの短期的な調達を継続するのか、またはロシアを国際的な食物連鎖の輪から切り離すのかとの狭間で大変難しいジレンマを抱えています。 後者のオプションはかなりの社会的影響をもたらす可能性があります。 これらの判断は個々の企業によって行われるべきではなく国内および国際的な機関によって行われる必要があります。
何よりも現在の緊急性は今ウクライナとウクライナの人々を助けることにあります。 同時に私たちはノルウェー政府と国際政府が協力して世界の食糧生産を維持し、ロシアへの依存を減らすために協力することを切に願っております。

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三宅耕司(明京商事株式会社)

GRWRSを監修。主にYara社海外法人の記事の翻訳を担当。
Yara社が掲げる“生産者中心 Farmers-Centric”の理念をGRWRSの記事の中にも反映・実践できる様にしたいと思っております。
農法・使用する農業資材はライフスタイル、価値感が人それぞれで違っているのと同じ様に生産者によって個性があっていいと思うし、そうあるべきとも思いますが、どの農法にでも通底するようなエッセンス・根拠は必ずある筈と思ってGRWRSの記事製作を行っています。
野球選手の評価がセイバーメトリクスという新しい指標によって変わった様に肥料の世界においても新しい視点・評価の在り方が普及・発展し、生産者にとって最適な資材が意図をもって選択され、使用されることを願っております。
そのためにも肥料のサプライヤーの立場から情報が偏らないように、非対称とならないような情報発信を心掛けていきたいと思っております。

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